プロローグ
「桐子(きりこ)…保育士の採用試験、今日なんだって?」
「そうなのよ…桐子(あのこ)ったら、緊張して、昨夜も遅くまで起きてたみたい…はい、朝のシリアル」
「シリアルより朝刊を取ってくれないか」
「シリアスな表情(かお)して、朝から恰好つけないでくれる?お父さん。はい」
「ん?…あゝ、ありがとう…桐子(お前)は慌てん坊だから注意(き)をつけないとな」
「分かってるよ…あっ、お母さん。面接(しけん)終わってから食べるから、ヨーグルトだけちょうだい」
「…なんでも、所長さんは、CDも発売しているシンガー・ソング・ライターとかで、近所の間では評判の成人病もちらしくて…」
「ひっど~い、お母さんったら、それは“あっち”の人で、“こっち”の人は松木さん!もう、個人情報だだ漏れっ
」

「なんだ、肥満(デブ)なのか
」

「お父さんまで…貫禄がある、って云って
」

「怪物の乾物みたいな所長(やつ)が、他人(ひと)様の大切な子供を保育(あずか)っているのか
」

「…あゝ、もういい…走って行くから、新聞読みながら朝食(ごはん)食べてて
」

「おい、桐子。車には注意(き)をつけるんだぞ。それじゃなくても、おっちょこちょいなんだから…
」

「この、おっちょこちょい野郎!気を付けろ!!…まったく、最近の年寄りは平気で標識を無視して進入(はい)って…って、おい!そこの自転車(ちゃり)、危ねェだろッ!一時停止も読めない輩(やつ)がチャリなんか乗ってんじゃねェ!!
…ったく、初めての住宅街…細い道の生活道路だけに緊張が半端(っぱ)ねェや…気分転換に御陽気な『テレビくん』でも聴いて…パクっ!
バッカ野郎…飛び出してくるなってェええ…ッ!?」
炎の男
「保育所で消火訓練って…熱い…種々(いろいろ)な法的規制があるんですね…こんなに大変だったとは思わなかったですゥうう~
」

「桐ちゃんは大学(学校)卒(で)たばかりだから、学業(理想)と仕事(現実)のギャップに馴れるまで大変でしょうね…熱い…お給料も仕事のわりには低いしねカナ!」
「そう、そう。加奈ちゃんの云う通り、子供たちは言うこと聞いてくれないし、所長や父兄は言い寄って来る…アツ…大人の火遊びほどロクなものがないJO!…もうねえ、関節(ふしぶし)が悲鳴、挙げっぱなしJO!
」

「丈(じょー)姐さんでも大変なんだ
」

「あったりまえでしょ、先代の所長は好い人だったけど、東京でレコード会社のバイト中に知り合った広告屋に騙されてから変(おか)しくなっちゃった息子さんが継(つ)いでから…スタッフだって大勢いて賑(はやって)いたのに…今じゃあ…もう、月1度の避難訓練、年に2度の消火訓練以上に大騒ぎJO!…あっ、消火液、なくなっちゃったJO!」