「心肺蘇生装置（ＡＥＤ）と柔道着（じゅうどうぎ＝どうぎ）は用意した。これで道義的にも問題はねぇはずだ…さあ、いつでもリンダ（あの娘）に
お節介…じゃない！若い娘を失神・介抱して、恋愛モードへ突入させてやれ
るぜ」
「寅ハン。何ヤルん？」
「だぁ～っ、ノックなしに男の着替えを覗くのは反則でちゅよーっ！恥ずか
ちぃいーっ！?」
「真ッ白ナ白衣ニ着替エテ、得体ノ知レナイ蘇生機（そせいき＝ましーん）
抱キシメテ、なでなでシテル…気色悪イネ」
「な…何を人聞きの悪い関西弁を！？
こ、これは死闘に付き物の万が一を考えて…まあ、いいや。今のは見な
かったことにしてやる…俺って、紳士だろ？」
「何、云ッテルカ解んナイぃイーっ」
「だからぁあ…さっさと世界一を決める真の実力王者決定戦、最強武道は柔
道だ！を始めようじゃないか。と、云ってるんだ！
これ以上、結果を先延ばしにするなんて、江戸っ子気質（きしつ＝かた
ぎ）が許さねぇや」
「シャ～ナイナぁ～、ド～シテモ闘（たたかう＝や）ル気ナンヤネ…」
「たりめぇだぁ、馬鹿やろめ。男が一度クチにした以上、意地でも遣遂（や
りと）げにあ、お天道様（おてんとうさま）に申し訳が建（た）たねえ！
ここは男らしく、リンダ（そっち）に先手を譲ってやろうじゃねぇか。
…さあ、こいつを着て、どっからでも、襲（おそう＝かか）って来なさ
い…」
「ホンマに、まじデ、襲（い）ッテええノんナ？」
「おうよ。男に二言はねえ！どっからでも、襲（かか）って来なさい。返り
討ちにしてくれるわ。小賢しい！」
「ナラ、コガアナ服…袖ヲ捲（まく）リ上ゲテ…と…イクデ？」
「おう。いつ・なんどき・どんな挑戦者でも受けてや…って？！い、・痛
（いった）～いっ！デコピンかぁ～っ！？」
「ぐれーたー柔術ノ極意…間合イヲ詰メタラ、素早イ動作デ、急所（きゅう
しょ＝額：ひたい＝デコ）ヲ打（ウ）ツベシっ！打ツベシっ！打ツベ
シっ！！」
「痛（いた）・イタ・痛たたたぁー…痛（いって）ぇーっ！…や、やめてく
れ…」
「寅ハン。ドコ逃ゲルカ…男ラシュウ闘ワンネ」
「い・痛い…ボンテージだから袖が取れない…痛いっ！て、手首を取ろうに
も…」
「手首（りすと）取レルモンナラ取ルガイイ。大声デ『痴漢』呼バワリシタ
ルサカイ…」
「く、くそう…痛いっ！『痴漢』呼ばわりとは卑怯な手を…い、痛い…！」
「ホレ、ホレ、ドシタ？ソッカラ先ハ、厨房（ちゅうぼう＝キッチン）ヤヨ
～？皆（ミンナ）ニ不様（ブザマ）ナ格好（かっこう＝トコロ）見ラレチャ
ウヨ～！？」
「痛（つ）ぅ…手首がダメなら、肩か腰を矯（た）めて…」
「せく・はら、カイ？」
「何ぃ？…痛い！」
「手首ガ駄目ナラ乳首ヤテ…コノ…社長サン、すけべネぇ…エイっ！」
「ぐわぁ～っ！キッチンのウエスタン・ドア（バネ式前後開閉扉）を背中で
開けちまったぁ…」
「おおっ！寅さんが白衣を着て、後ろ向きに、弾き飛ばされて来た！？」
「か、勘弁してくれ…愛しのリンダちゃん…それ以上、デコピンされちまう
と、眉間（みけん）にデコピン皺（じわ）ができちまう…お、お願いだか
ら…か、勘弁してくれ！」
「アホ。自分カラ喧嘩（けんか）売ットイテ、何、白衣着て泣キ言並ベト
ル？…ホリ！」
「こ、今度は鼻の頭かい！
お、オイラが悪かった…象さん時計の隣にある病院から白衣を借りて来た
た、オイラが悪かった…グ、グレーター柔術こそ、世界最強にして、ワイル
ドな格闘技だと認めるから、勘弁してくれ～！
…痛（っ）て。
はっ！お…お前らは？」
「おっ、前から来る３人組の長い影は！？」
「欽念、これこそが、お前の申していた『不吉な予感』の正体なのか！？」
「さ、咲念様…お、和尚様…昨年来から感じておりました、近年にない不吉
な気配（けはい＝かげ）の正体とは、まさに“このこと”だったに違いあり
ませんッ…あな、恐ろしや！」
「アナ、お揃いの上層部…って！３人そろって何してやがんだ、お前ら？ま
た、殴られに来たのか！」
「デコピンのショックで、やっと過去の悪行を思い出したか、このオッチョ
コチョイ！ここで逢ったが百年目。ついに見つけたぞ、絶滅危惧種のジャン
トニオ・猪馬！
お三宮（さんのみや）での仇（かたき）…今こそ討（う＝と）ってくれる
…っ！？」
「おおっ、ガッテンのマサが、弧を描くように、キレイに投げられたぁ～！
続くもう一人も、手首を極（き）められて、強烈な足払いから背負い
を…？！」
「悠長に実況中継してる場合か、くぅおらぁあ？成長のねぇ、馬鹿ども
があ…っ！」
「よ、寄るンやないっ！ワテら…こう見えてン、死に者狂いで…く・苦しい
修行の末に、驚天動地の…唯一無二の…世界最強の…え、え～と…。
あっ、あれを見ろッ！」
「ん？」
「チャ～ンス！デコピ…」
「ば～か。男相手にセクハラも痴漢もねぇ、ってもんだ。江戸っ子気質（か
たぎ）侮（あなどる＝な）めんなよ…よいしょ、っと！」
「ああ～れ～…で…出ェ～ちャ～うゥう～ッ…！？」
「ちゃう、ちゃう…チャイマンネンっ！」
「いえ…お話は、充分わかりました」
「せやから『違う（ちゃ）う』云うてンやろ？！
ワテらは、『寺（ここ）に来れば強（つよ）うなれる』聴かされてェ…
あ、アホンダラ～。ど・何処、触ってンのやァ…！
あ、あかん…そ、そこ…だ、ダメやきに…ラーメン屋の親父ィ～、怨むでェ～ッ！」