「『なんでや』と問われても…買い言葉に売り言葉と申しますか、売り言葉
に買い言葉、でしたっけ…?」
「欽念(おまえ)が関西出身だからと言って、何も『何と申した』を関西語にト
ランスレート(翻訳)せんでもいい。無理に、面白・可笑しくせんでいいから、
簡単・明瞭・平易に申し上げてみよ」
「オッキーは、その後―毎年『避暑と気分転換』を理由に、その実は借金取
り&バンド・メイトらの慰謝料支払いから逃れるために、度々当寺を訪れて
は、得体の知れない人間を“修行名目”で残して、下山して行きました」
「おう、おう、そうじゃった…どれも使えない、根性なしばかりだったな…
とすれば、じゃ。
富士山大噴火や東海大地震みたいに、売れなくなった三流雑誌や新聞、ワ
イドショーが、カンフル剤として不安産業の片棒を担ぐみたいに、そろそろ
現れてもいい頃だということか?」
「御住職様、何やら、お楽しみのようで…」
「そりゃあ…あんな馬鹿…もとい!
体通りに器量がデカいのか、何も考えていないのか判らない―『人畜無
害』を謳(うた)うくせに“紙一重(かみひとえ)”な人間、中々お目には
かかれないからな…」
「御住職。正直に言っちゃいましょうよ。Wクリームのロールケーキか、珍
しいフルーツ。80%ライ麦で焼いた割にはフワフワのカンパーニュが欲し
い、と」
「これ、咲念!ワシは、どこぞの成人病を患(わずら)った売れないシン
ガーソング・ライターにして、保育所長ではないぞ!」
「ほう行く…助長しおって…」
「ガッテンのマサ、どないした?顔色が悪いでェ…腹、壊しとンのは、リー
ダーで、お前やなかったろ?」
「なんだって?お前、リーダーのくせに腹壊して、ピーピーなのか?戦後す
ぐの草野球みたいで、ミットもない…おおかた、火を完全に通してない闇鍋
擬(やみなべ もど)きの、ピラフかオヤジのオジヤだかを摘(つ)まみ喰
いしんたんだろうな…岩場の霊園みたいに浅墓―浅薄(あさはか)な男(や
つ)だ…って!そう言えば、店(うち)の摘まみ喰いピーピー男、どこ行っ
た?」
「さっき、『リンダちゃん―本名マリザちゃんと決闘して来る』と云って、
着替えのために、スタッフルームに消えて行ったっス」
「決闘の場所に、所狭しとロッカーが並ぶ四畳半の控室を選ぶか普通?」
「なんでも、『ぐれーたー柔術ハ時ト場所ト相手ヲ選バナイ』って、リンダ
ちゃんか、マリザちゃんだか知らない、『ぶらじるノ方カラ来タ』外人さん
が嘯(うそぶ)いてたわよキリ!」
「切った・焼いた・茹でたの血腥(なまぐさ)い諍(いさかい=もめごと)
はキッチンだけで充分やろうに…って、いまの上手(うまく)なかった?何
気にオモロかったっしょ?!
シンガー・ソング・ライターやめて、何でもこなせる“タレント”になっ
たろかな!な?な?な?内科医のセンセ!」
「『才能』と書いて『タレント』と読ませるらしいから、園長センセには如
何なものかと…保育所の経営センスはエエんやけど、芸事に手ェ出すと、火
傷(やけど)しまっせ?」
「上手いなァ…磯貝・心外・圏外のくせして…ほな、こうひまひょ、かね。
店(ここ)で逢(あ)ったンも何かの縁、や。さっきから恍(とぼ)けたネー
ミングしか思いつかきヒン人らの代わりに、3人(こんひと)らに格好エエ、
チーム名、考えたろうやないかい。ワテのセンスに驚いてまうどォ
おッ!?」
「おおッ!企業相談(コン・サル=コンサルタント)の本領発揮ですね?!」
「『紺色の猿』と書いて『コン・サル』だけに、期待できねぇんとちゃうか
い?
しょせん猿は、見ない・聞かない・言わないの、無責任な生き物だから
な」
「副料理長、真実(それ)は店舗再建に乗り出してくれた店主(オーナー)に失礼
な物言いでは御座いませんか。私、STOといたしましては、新オーナーで
あられる松本“ミュージシャンとは名乗らないシンガー・ソング・ライ
ター”則彦さんの実力を、ぜひとも拝見させていただきたいと存じ上げま
す。
ちなみに、アンヴァサダー(英語で『大使』の意味)よりも、アンフェ
アーや、アンコール。アンモニアに、アン・ビリーバヴォー。アンダースタ
ンド。
以外にも、アンキモ・アンアン・アンドロイドにアンちゃん、アンまりだ
~とか…あ、あとですねえアンバ…」
「いややァあ~ッ!その名前だけは汚さんといてェ~なァ~、アージェン
テェ~な~!」
「へっ?…アンバースト(破れない、壊れない=丈夫)に何か特別なお思い
入れでも?」
「ねぇ~よ、アホンだら~。他人様(ひとさま)の美しい思い出を玩具(お
もちゃ)にしやがって…精神のバランスが崩れてまうがね…」
「おおッ!精神のバランスが崩れる=アンバ…」
「せやから、やめてッ!云うたるがな~。頼ンまっせぇ~!?」
「へっ?『精神のバランスが崩れるのはあんまりだ~』云うンが、なじぇに
あかんの?わからヘン」
「そっちかい!?」
「松本(あんた)は再建屋で暴走族(チーム)じゃねェンだ。そこまで嫌がらなく
てもいいんじゃねぇの?」
「ワー公のアホ。ワテも店(チーム)の一員やないかいな!せやから、初めて
行った人には複雑で分かりにくい山本駅に戻らんで、開業医もない辺鄙(へん
ぴ)な店(とこ)で、いくつもの夜を皆はんと、過ごしとるンやおまっかいな」
「店(ここ)には、神尾信二くんも、なんちゃら美奈さんもおまへんでェ~、園
長センセ」
「アホかァ?磯貝・タンク蟹(がに)・クール蟹センセ。皆さん云うたら、
ワテラ含めたスッタフの皆さんで、どこぞの美奈ちゃんなど入る余地などあ
りまっかいな」
「せやかて、『美奈さん』云うたら、身体(からだ)を壊す前の園長センセが北
や南の新地(しんち)で御贔屓(ごひいき)にしとった…」
「アカン!そっから先は、絶対、アキマヘン。ワテだけやのうて、家(うち)の
名誉にかかわることやで?たとえ想像(つくりもん=うそっぱち)云うたか
て、書いてエエことと悪いことがある、っちゅうもんでンがな。こんのォ、
スットコドッコイ!」
「酢トこど鯉、合ウネ。サッキ食ベテ実感シタヤん」
「実家が下でミカン農家の咲念。何をシミジミしとるのかな?」
「それがですね、住職様…子ども扱(あつか)いされるのは誰でも嫌なもの
では御座いますよね?しかし、あの、オッキーナめときたら、いい大人のく
せして、大人げない悪企(わるだく)みばかりを仕掛けて来まして…」
「ほう…どこぞの広告宣伝屋みたいな存在(そんざい=もの)だな?」
「はあ…広告宣伝屋(あちら)は、自己規制の範囲(はんい=もと)で、世
間に迷惑を掛けないように営(いとなむ=や)っておりますが、オッキーナ
(あの男)は、自己規制という節度(せつど=もの)が御座いません」
「まさに!いい大人が、大人げない…して、欽念。何を心配しておるのか
な?」