「なっ、なッ、な!過労ではないかと想うんだ」
「寅(あんた)、どう足掻(あが)いても家老になれない野郎だけど絶対、
過労はないっ。過労どころか、仕事をやろうとも思(し)ない怠け者(モ
ン)だ。
絶体に。間違いないッ!」
「仕事嫌いなスー・シェフ(副料理長)の木下(あんた)に云われる覚(お
ぼ)えはないぞ、ワー公」
「『芸能関係で稼いで見返してやる』とか言っても、寅(あんた)、学芸会
どころか発表会や、お遊戯会すらズル休みしていた“極度の緊張(きんちょ
う=あがり)症”じゃないか。そんな男(ひと)が、人前に出て、急に泣い
たり怒ったり、歌唄ったりできんのか?!
保育所の園長先生みたいに肩書と威勢だけ好(い)いくせに、何も活動し
ない張子(はりこ)の虎じゃあないのかい。ええッ!?」
「ア、アホ抜かしないなァ~。ワテは日常業務(ルーティン・ワーク)が忙し
ゅうて、演(や)りたくても音楽活動ができヒン可哀想な子なんやで?」
「だ、誰だ…あんた?」
「設定上のミスや。堪忍な。ワテは、実在の人物と違(ちがう=ちゃ)う、想像上の人物であり、こん店の経営者(オーナー)でもある松本則彦やでェ~。ほり、ワテのブログだすッ!」
「せやで~。園長先生ともなりはると、種々(いろいろ)と付き合いかてギョウサンおます。伊達や酔狂で引き籠(こも)っとるわけやないんやで~。
いくら、音楽が好きやからと言うたかて、簡単に時間を捻(ひね)くり出しとる暇(ま)がない立場(もの)なんや。そこんとこ、分かってやらにゃあ。なあ、園長先生」
「せやで、磯貝・ヤリガイ・まるでない先生。エエこと、言うてくれた!座布団(ざぶとん=おざぶ)やろか?」
「オザブはええから、サブう冗談は堪忍しとくれやっしゃァあ。
そんでワイは、磯貝・タフガイ・クールガイ、や。頼んますわ、ホンマにィ…」
「そんなに忙しい人間が、どうして本業以外の業界に首を突っ込んで来る?首を突っ込むということは、それなりの覚悟と決意があったからだろうに…それが、自分の不摂生で成人病になるは、散らかし放題に言い散らかした責任すらとらずにいるということは、無責任以外のナニモノデモないだろ?」
「アホ。本筋からずれたことを、ムリクリ、ワテのブログにリンクさせようとして捻り出(ひねりだ)しィ~なァ!
あっ、さっきから話題に出されとる、ワテのブログとアマゾンのみで絶賛発売中のCD音源だす。よかったら1枚、買(こ)うたってェ~な~、エンターテ~ナ~」
「話を逸らして自分の売込みに持って行く術(すべ)だけは長(た)けてるんだよな~。どうして、それを音楽活動に活かさないかね…」
「そ・それはやねェ…あ、アレやね…な、なあ?園長先生。云うたってェ~な、エンターテ~ナ~!」
「せ、せや…アレでんがな…なあ?寅はんや…」
「お、おうっ…アレと云やァ、浅草ロック座で友情を温(あたた)めあった“あれ”だな…って!なんで、俺がマッチーの“アレ”を語らにゃいかんのだ?!俺たちゃア、いつからホモ(そういう関係)になったんだあ!
だいたいだなあ…せっかく新商品が出来た祝いの席に、変な輩(やから=おまえら)が出て来るからいけないんだ!
お前ら、いったい誰なんだ?!
そんで、この責任、どう取ってくれるんだ。ええッ!?」
「ですからァ…さっきから自己紹介しようとしてるンですがァ…決まって、横から口を挟(はさ)まれてまうンだがね…アンタ、ホンマにワテラ覚(おぼ)えとりまへンのン?」
「誰がムサクルシイ野郎共なんざあ、覚えていられますか!東京は花の下町で生まれて、苦労の果てに埼玉県の高級住宅街に居を構えたビジネスマン、侮(あなどる=なめ)んなよ」
「ほら、ほら、ほらァ!そうやって、オドオドしてる弱者には強いくせに、権威者にはカラッキシ弱いんだから…まったく、いつから、こんな卑(いやしい=や)な男(にんげん)になっちまったんだからな!
スーシェフのワーちゃんは悲しいよ…」
「アホンだらやね~、アンタはん。
寅はんは東芝音工時代(むかし)から、こういう男(おひと)でっしぇえ?『何年前(いつから)』云われたかて、答えられるはずおまへんがね。なあ、大親友?」
「批判してんのかい?
俺が変わっちまったのは…」